本当にフィジカルであるということ

トレーナーであり、ライターでもあるジョージー・オケル(Georgie O’Kell)は、デスクワーク中心だった生活を、屋外中心の生活に切り替えた。彼女の感覚がそれ以降どのように開花したか、その秘密が明かされる。

去年の今頃、私はLAに本拠を置くITベンチャーのおしゃれなオフィスで机に向かっていた。〈スラック〉で反対側にいる同僚にメッセージを送っていたのだ。お互いを見るのではなく、2人とも目は画面に釘づけ。眉をひそめたり、笑っちゃうような場面では、絵文字を使って。「シャノンがタイプしてるのは……」。ああ、あのスリルと言ったら。目の前の画面には8万7千ものタブが開かれ、書きかけのメールが2〜3本、途切れた思考のようにぶらさがっている。私の注意の大半が注がれるのは、チャットのウインドウ。だってしょっちゅうピコピコ鳴るし、静かになったかと思えば、急かしてくるのだから。

デジタル社会も、しばらくは悪くなかった。ピョコピョコ飛び出るアイコンや、青い丸がついたメール、ピーピー鳴るスマホや、そのほか色々。通知はぜんぶオンにしておくこと。でも次の瞬間、さらなる欲求が襲ってくる。永遠に満たされない渇望。底なしで、意味もないデジタルの世界。

そんな生活のある段階で、私は、永久に満足できない中途半端な人間になってしまっていた。画面の前から動かず、私たち全員が持って生まれた2つのものから完全に目を背けていたのだ。私たちが共に生きなければいけない、たった2つのもの。心と体。

何かが間違っていると感じた。自分の見方を変えれば、ほかの選択肢もあるのではと思えたのだ。だから、私は仕事を辞めた。立ち上がり、おしゃれなオフィスに別れを告げ、田舎へと旅立った。実家に戻り、イギリスの田舎にある母の家に移ったのだ。そこで思った。「サイテー、今度は何なの?」

わかっていたのは、自分がデジタル社会から逃げたかったということ。だから、思いを断ち切って、忘れかけていた世界へ恐る恐る舞い戻ろうとしたのだ。フィジカルな世界。心と体と空間と感覚の世界。スマホで光る青い丸から、宇宙に浮かぶ青い球体へ。デジタルの殻を破り、今こそリアルな世界へ飛び出すのだ。

もっと簡潔に、そしてより実際的に言うと、デスクワークを辞めてパーソナルトレーナーの道に進んだということだ。自分の心や体に十分にアプローチできていないとずっと感じてはいたので、最も率直で論理的な結論に至ったのである。

最初の頃、私は6週間学校に通い、学び、集中し、心にリアルなものを注ぎ込んだ。満ち足りることを知っているもの。私の頭をたっぷり、さらにそれ以上満たしてくれるもの。大人としてだんだん学校というものに馴染めなくなってくると、ここ10年ほどで私たちの心がどれほどデジタルに侵されてきたかに気づく。自分の注意力の持続時間が短くなっていたことを思い知り、何度もインスタをチェックせずにはいられないことを感じたとき、私はそのことに気づいた。注意力を削ぐものが多く、絶え間ないので、宿題をする時間も以前より長くかかるのだ。スマホを別の部屋に置いたり、引き出しの中にしまったりすることもあった。スマホを忘れてでかけてしまい、結果的にはグループチャットに絵文字を流し込むという作業をすることなく宿題を終わらせることができた、ということもあったくらいだ。

それでも、乗り越えることができた。疑問を感じ、反発する心を持てたのだ。押さえつけ、閉じ込めることができたのである。だんだんと、ふわふわしてどこにでも飛んでいきそうだった空っぽの心が、知識で重くなり、しっかりと目標をとらえるようになったのだ。渇望は探究心へと変わり、その探究心はしっかりとした答えや解決策を得ると満足するのだった。

わかっていたのは、自分がデジタル社会から逃げたかったということ。だから、思いを断ち切って、忘れかけていた世界へ恐る恐る舞い戻ろうとしたのだ。フィジカルな世界。心と体と空間と感覚の世界。スマホで光る青い丸から、宇宙に浮かぶ青い球体へ。デジタルの殻を破り、今こそリアルな世界へ飛び出すのだ。

もっと簡潔に、そしてより実際的に言うと、デスクワークを辞めてパーソナルトレーナーの道に進んだということだ。自分の心や体に十分にアプローチできていないとずっと感じてはいたので、最も率直で論理的な結論に至ったのである。

最初の頃、私は6週間学校に通い、学び、集中し、心にリアルなものを注ぎ込んだ。満ち足りることを知っているもの。私の頭をたっぷり、さらにそれ以上満たしてくれるもの。大人としてだんだん学校というものに馴染めなくなってくると、ここ10年ほどで私たちの心がどれほどデジタルに侵されてきたかに気づく。自分の注意力の持続時間が短くなっていたことを思い知り、何度もインスタをチェックせずにはいられないことを感じたとき、私はそのことに気づいた。注意力を削ぐものが多く、絶え間ないので、宿題をする時間も以前より長くかかるのだ。スマホを別の部屋に置いたり、引き出しの中にしまったりすることもあった。スマホを忘れてでかけてしまい、結果的にはグループチャットに絵文字を流し込むという作業をすることなく宿題を終わらせることができた、ということもあったくらいだ。

それでも、乗り越えることができた。疑問を感じ、反発する心を持てたのだ。押さえつけ、閉じ込めることができたのである。だんだんと、ふわふわしてどこにでも飛んでいきそうだった空っぽの心が、知識で重くなり、しっかりと目標をとらえるようになったのだ。渇望は探究心へと変わり、その探究心はしっかりとした答えや解決策を得ると満足するのだった。

学校では、教室にいないときはジムに出かけ、体の動きやその発展性、可能性について学んだ。助け合い、教え合いながら、励ましや努力、リッキーの宿題を写すことを力にし、6週間を共に乗り越えた共同体が出来上がったのである。ノートパソコンなどは介在しない。もちろん〈#スラック〉だってなし。ノートと蛍光ペンと脳みそと上腕二頭筋で、あらゆる問題を解決するのだ。

そのときの私は、仕事をするための準備は整っていなかったけれど、リアルな世界と対峙する準備はできていた。リアルな人間とリアルな会話をし、リアルな雨の中に立って、リアルな疲れを体に感じ、リアルに痛む背中にリアルな重みを乗せる。そんな世界だ。そこでは、心と体がすべての物事を感じる。隠し事などなく、フィルターもない。つながりは深く、信頼でき、純粋だ。私は人に限界に挑戦するように言う。そうすれば、自分の体の可能性や、心がどれほど強くなれるか、集中できるかを学ぶことができるからだ。その一端を担えることは素晴らしいと思う。

そんなわけで、私は今ここにいる。完全にフィジカルな人間として。1週間毎日、戸外で働いている。毎朝日の出を見て、季節の移り変わりも敏感に気づく。夏から秋、秋から冬へと移り変わる一瞬一瞬を知ることができるのだ。暗さを感じ、寒さを味わい、落ち葉の臭いを嗅ぎ分け、足下で割れる凍った草の音を聞く。昨日、ある公園でクライアントを待っているとき、すべての色づいた葉が週末のうちに掃き清められてしまったことに気づいて、ほとんど泣きそうになってしまった。そして、「冬の始まりに立つというのはこういうことなのだ」と思ったのである。30年生きてようやく、これこそが価値ある感情なのだと気づいたのだ。

フィジカルな世界では、私たちの心も体もその限界を追求し、そこに向かって走っていく。1日1時間でも、リアルな刺激をデジタルな刺激に置き換えることができるなら。私たちはつながり、動き、学び、成長する。通知はすべてオフにすること。リアルな世界を招き入れ、自分自身を満たすのだ。そうすれば、少なくとも渇望はどこかへ行ってしまうだろう。

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