アーティスト・花代、いま立ち返る抽象の世界

アーティストの花代が、タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムにて開催中の個展『hanayo III』で、より抽象性を押し出した写真・映像作品を発表。色彩や光の描写が深い印象を残す、彼女がとらえる夢幻的な「抽象」の世界を5つの観点から探った。

Hanayo, “Untitled”, 2017, C-print, 84 x 60.1 cm © Hanayo / Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film

1

現実と夢想の狭間に映る「色彩」

子供の頃から、写真に写るハレーションを起こしたような異様な青だったりピンクだったり、そういう色がとても好きでした。その頃からいつも、現実の視界には存在しないような、でもこの世界のどこかにはきっとあるような色を探し求めて撮っている気がします。イギリスとドイツで活動していたのですが、日本と比べて、ヨーロッパは日照時間がものすごく短かったり、曇りが多かったりするので、光線や街の色彩が全く違いました。そういった自然環境、建造物や調度品などからも自身の色彩感覚に得た刺激があったと思います。灰色を美しいと思わないと、向こうでは生きていけないので、微細な灰色の違いやグラデーションが見えるようになりました。東京の空は青みがとてもビビッドで、街中にもカラフルなお花や建物が溢れているので、ヨーロッパから帰って来て改めて眺めると驚くことが多かったです。こんなにも東京ってカラフルなんだなという感動がありました。その反動なのか、最近では白黒の写真も撮るようになったんです。今まであまり試みたことが無かったんですけど、白黒でもいいんじゃないかなって。それでもカラフルに映る何かがあるんじゃないかなって。

Hanayo, “Untitled”, 2017, gelatin silver print, 25 x 33.7 cm © Hanayo / Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film

2

生み出される喜びに似た「光」

「逆光じゃない?」と人によく言われるんですが、直感的に、逆光を撮るのが好きなんでしょうね。森や公園で写真を撮っていると、ずっと太陽を見ているおかげで目がチカチカしちゃうんです(笑)つねに、「光に向かって撮っている」という気はしますね。そんな光や色を寄せ集めた私の作品が、例えば子供が母体から生まれ出た瞬間に見るのはただの光と色であるように、あらゆるしがらみを取り払って純粋に眼に映る光景を捉えているのでは、と友人に言われたことがあります。私の創作は、いわゆる記録写真ではなくて、「絵を描く」かのような感じで、なにか創作物が感性に導かれるままに生み出されるように、光の力の後押しを借りて、写真を撮っているのかもしれません。

Hanayo, “Untitled”, 2017, gelatin silver print, 33.7 x 25.1 cm © Hanayo / Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film

3

写真の中で現実を再構築できる「美しい粒子」

私が小さい頃には既に「写ルンです」みたいな、誰でも簡単に持ち運んで記録用の写真を撮れる文化がもうあって。そういう中で私が今の写真機、祖父の形見のオリンパス・ハーフサイズカメラで遊び始めたのは、肉眼と違うものが写る、念写のような、そういう世界が面白かったからです。ものすごくボケていて美しい粒子が浮き出ていたり、色が現実世界よりもものすごく鮮やかに写っていたり、逆にフラットに出ていたり、自分が捻じ曲げているような、その感覚が楽しいですね。「全部つぶつぶの細かな粒子からできているんだ!」と撮り始めの頃は毎日が衝撃の連続でした。よく見てみると、赤のポチがあって青のポチがあって。その世界に長年引き込まれていました。粒々の集合体が美しいんです。子供の頃から、てんとう虫とかイチゴ柄のものを沢山集めていたんです。なので、お部屋もそういうものであふれていました。美しい粒子状のものや、綺麗な斑点が好きで、そういった「つぶつぶ」好きな二人での、草間彌生先生との対談もありましたね。水玉が好きな草間先生とイチゴとてんとう虫に囲まれている花代ちゃん、みたいな。

Hanayo, “Untitled”, 2017, gelatin silver print, 25.5 x 33.8 cm © Hanayo / Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film

4

被写体の輝く一瞬が撮れる「偶然性」

写真の楽しさの一つに「偶然性」があるかもしれません。写真屋さんに現像してもらった写真を取りに行く時間などは、何が見えてくるかわからないという高揚があって一番好きな瞬間です。友人が美しいパフォーマンスをしているとすれば、その舞台は全てが偶然性の塊というか、ライブ感がある。そういうのをキャプチャーするのがきっと好きなんだと思います。子供でも友人でも、輝いているその一瞬を切り取って、本人に見せてあげたいという気持ちがつねにあります。なので、いい写真作品を作りたいから撮っているというよりは、友人の美しい瞬間を掴みたいから撮っているという気持ちが強いです。その行為自体が、偶然との出会いのようなところがありますもんね。思いがけないようなものが撮れている瞬間が好きです。

Hanayo "hanayo III", installation view at Taka Ishii Gallery Photography / Film, Apr 8 – May 13, 2017 / Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film / Photo: Kenji Takahashi

5

新たな挑戦に試みた「8mmフィルム」

父が私を撮った8mmの映像があって、それを10年ぐらい前に、家族全員で観たんです。やっぱり同じ世界観というか、私自身、映像のテキスチャーとか温度感とか、アナログな写真が好きなので。今回の個展でも、10代の頃からご縁のあるヴィジュアリストの手塚眞さんにご協力いただいて、映像をループさせて見せるということをやってみました。映像もそうですが、編集作業自体もとてもアナログで、フィルムを切ってセロテープで貼付けてという、すごく原始的で今までの手法とは全く別物でした。やっぱりコンピューターで編集するのと、アナログで編集するのっていうのは、作業過程の視点も、感じ方も表現世界も全然違うんです。やっぱりフィルムは「物体」なんだなってことを感じましたね。デジタルが写せないような、何か宇宙みたいなものがあるんだと思います。フィルムは「物体」で、そこに何か宿っているんだと思います。

Photo: Hajime Sawatari

花代 / 1970年東京都生まれ。玉川大学文学部美術学科彫刻専攻在学中にパリへ留学、その後1989年に向島で半玉修行を始める。1995年に花柳界を引退し渡英。現在、東京・ベルリンを拠点に、写真家、芸妓、ミュージシャン、モデルとして多方面で活動を展開。自身の日常を幻想的な色彩で切り取る写真やコラージュ、またこれらに音楽や立体表現を加えたインスタレーションを発表。国内外での多数のグループ展・国際展に参加、ライブ・パフォーマンスも行う。

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