至極感覚的な組合せの美を追求する、佐野方美の作品世界

写真家・佐野方美は、日常に潜んだ自身が感覚的に美しいと認めるモノや情景を静かに切り取る。その極めてパーソナルな写真は一見とりとめの無い集合体に思われるが、様々な手法、組み合わせの妙によって独特の彩色を放ち、めくるめくほど発光する。

恵比寿のギャラリー「AL」にて、先日まで開催されていた彼女の個展「SLASH」に足を運んだ。同名の写真集を記念したこの個展では、前述の写真集が先行発売されている。ギャラリー内の壁に掛けられた作品、写真集に掲載された作品それぞれを見つめながら、彼女の作品について極めてパーソナルな視点で、本人に語ってもらった。「写真家って名乗ったら怒られるかも」と、控えめに照れ笑いを浮かべる彼女の独特の作家性を垣間みる5つのヒントがこちらだ。

1

パンとフィルム

「モノだけで世界観を創る」ということにずっと挑戦している気持ちがあります。作り込み過ぎずに、ポップに大胆に、特定の意味をもたせない。おそらく“コンセプチュアル”とは、一番遠い世界で写真を撮り続けていると思います。具体例を挙げるなら、この写真。ある日、海外でのシューティングから帰国して自宅に帰ると、捨てないで置いてあった2枚の食パンを発見。そういえば食べきれてなかった。やや細長くて薄くてフォルムが美しい、いつも食べているお気に入りの食パン。だけど、こう時間が経ってしまったら、食べるには固い。そこで、そのまま捨てるのももったいないなと、その場でフローリングにアルミを敷いて、固くなった食パンを置いた。食パンの中央、白く一番甘い部分にこちらもお気に入りのブローニーフィルムを挿した。Kodak PROTRA 800。こんな感じで私がカメラを構える時は、ロジックよりもフィーリングが先行します。

2

組み合わせる

写真を撮る時は、一枚絵で成り立つものを考えていません。例えば、この3枚の写真も、組み合わせて並べ立てることで、ひとつの作品が完成する、そういうふうに私は捉えています。ポスターや漫画などのイメージに近いのかな。もちろん、写真を撮るっていうモチベーションのベースは「何よりも写真が大好きだ」という愛なんですけど。撮るだけじゃなくて、写真と写真を組み合わせることも大好きな作業ですね。

3

テーマよりも

テーマやロジックよりも、物のフォルムだったり、質感だったり、シルエットを大切にしています。それは、ここ20年くらい撮り続けているための、職業病というか、癖というか、言うなれば趣味みたいなものですね。この寄りの植木の写真も、同じ写真を大きさだけ変えて前後に2枚重ねています。一枚ではしっくりこなくて、重複させることで自分の中では気持ちいいフォルムに収めることができました。

4

コラージュ感覚

これも、この組み合わせでひとつの作品です。モノクロのコントラストの強いイメージは、以前から撮り続けているもので、仕事とは別で撮るローな温度だからこそ切り取れるものがあるのかなって思います。物をスナップする感覚です。

5

レイヤード

今回の展示では、作品写真にOHPフィルムをレイヤードした表現にも挑戦。この重ねるという手法を用いてつくった作品も、グラフィカルですごく手応えがあるというか、自分自身で、眺めていて壮快さを感じる表現です。写真集のために撮り下ろしたものと撮り貯めていたものを、パズルのように組み合わせること、出合わせることは、この上なく楽しい作業です。展示会には、OHPフィルムの他にトレーシングペーパーを使用したものもあります。

佐野方美/www.masamisano.com/ファッション誌、ファッションブランドのカタログ・広告、CDジャケットなど、コマーシャルフォトで活躍を続けるフォトグラファー。現在、ギャラリー「AL」にて、自身初の写真集「SLASH」の刊行を記念した個展が開催中。2月14日には、同写真集が一般発売される。

This Week

和洋新旧の混交から生まれる、妖艶さを纏った津野青嵐のヘッドピース

アーティスト・津野青嵐のヘッドピースは、彼女が影響を受けてきた様々な要素が絡み合う、ひと言では言い表せないカオティックな複雑さを孕んでいる。何をどう解釈し作品に落とし込むのか。謎に包まれた彼女の魅力を紐解く。

Read More

ヴォーカリストPhewによる、声・電子・未来

1979年のデビュー以降、ポスト・パンクの“クイーン”として国内外のアンダーグランドな音楽界に多大な影響を与えてきたPhewのキャリアや進化し続ける音表現について迫った。

Read More

小説家を構成する感覚の記憶と言葉。村田沙耶香の小説作法

2003年のデビュー作「授乳」から、2016年の芥川賞受賞作『コンビニ人間』にいたるまで、視覚、触覚、聴覚など人間の五感を丹念に書き続けている村田沙耶香。その創作の源にある「記憶」と、作品世界を生み出す「言葉」について、小説家が語る。

Read More

川内倫子が写す神秘に満ち溢れた日常

写真家・川内倫子の進化は止まらない。最新写真集「Halo」が発売開始されたばかりだが、すでに「新しい方向が見えてきた」と話す。そんな彼女の写真のルーツとその新境地を紐解く。

Read More

動画『Making Movement』の舞台裏にあるもの

バレリーナの飯島望未をはじめ、コレオグラファーのホリー・ブレイキー、アヤ・サトウ、プロジェクト・オーらダンス界の実力者たちがその才能を結集してつくり上げた『Five Paradoxes』。その舞台裏をとらえたのが、映画監督アゴスティーナ・ガルヴェスの『Making Movement』だ。

Read More

アーティスト・できやよい、極彩色の世界を構成する5つの要素

指先につけた絵の具で彩色するフィンガープリントという独特の手法を用いて、極彩色の感覚世界を超細密タッチで創り出すアーティスト・できやよい。彼女の作品のカラフルで狂気的な世界観を構成する5つの要素から、クリエーション誕生の起源を知る。

Read More

ハーレー・ウェアーの旅の舞台裏

写真家ハーレー・ウィアー(Harley Weir)が世界5カ国に生きる5人の女性を捉えた旅の裏側、そして、ドキュメンタリー映像作家チェルシー・マクマレン(Chelsea McMullen)が現代を象徴するクリエイターたちを捉えた『Making Images』制作の裏側を見てみよう。

Read More

『Making Codes』が描くクリエイティヴな舞台裏

ライザ・マンデラップの映像作品『Making Codes』は、デジタルアーティストでありクリエイティヴ・ディレクターでもあるルーシー・ハードキャッスルの作品『Intangible Matter』の舞台裏をひも解いたものだ。その作品には、プロデューサーとしてファティマ・アル・カディリが参加しているほか、アーティストのクリス・リーなど多くの有名デジタルアーティストが関わっている。

Read More

ローラ・マーリンが表現する、今“見る”べき音楽

イギリス人のミュージシャン、ローラ・マーリンのニューアルバムに満ちている“ロマンス”。男っぽさがほとんど感じられないその作品は、女性として現代を生きることへの喜びを表現している。

Read More
loading...