詩に彩られたアザデー・ラザグドゥーストのアート世界

中東のアーティスト、アザデー・ラザグドゥーストの作品は、人間の内にある葛藤と感情を、政治的に紐づけている。イギリスでは初の個展「Recipe for a Poem」では人間の豊かな表情が描かれたポートレイトが展示される。

イランはテヘランで生まれたアザデー・ラザグドゥースト(Azadeh Razaghdoost)は、「人間の内にある臓器と感情」に関心があり、当初は内科医か外科医を志していたという。やがてテヘランの芸術大学で絵画を専攻するようになるが、同様の関心が現在のような作風を生み出すこととなった。西欧のアートに強い影響を受けながらも、アザデー自身の姿勢やイデオロギーは、情熱的な性質の核となる感情表現、本能的衝動、そして欲望を内包するその作品や美意識に欠かせない要素となっている。

アザデーの作品には、詩を取り入れた表現が多く見られる。19世紀のロマン主義時代の詩や、ウィリアム・ブレイク(William Blake)、ボードレール(Baudelaire)といった詩人たちに刺激を受けた彼女は、「アートと詩の間に強い類似性」を見出しているという。詩の世界では、詩をつむぎ出すために書き手は言葉を使うが、それは絵を描くために画家が画材をキャンヴァスにのせる行為とよく似ている。「詩人たちの世界観に似ているものを感じるの。自分の作品に対する私の視点と呼応するから。それは、私にとって大きな意味を持つさまざまな感情の移行なの」。アザデーが扱うのは、あらゆる者に関係する、無意識的な、だがユニバーサルなテーマ。そして、死や病気、愛、苦しみ、欲望といった人生の断片をキャンヴァスにぶつけるのだ。「鮮やかな赤色は、作品の中で臓器のような役割を持っているの。血液を想起させるでしょう。そして血液は私にとって命の象徴でもあるのよ」。そしてその色はまた、作品の生命力を際立たせる。イギリスでは初となる個展「Recipe for a Poem」で展示されるのは、感情に対する彼女の優れたアプローチを見てとることのできるポートレイト。観る人それぞれに違う印象を与えるそれらの作品の核となるのは、人間の豊かな感情そのものなのだ。

〈Letters〉

「アルファベットと音符の間のどこかにある形をつくり出したくて、この作品では鉛筆を使っているの。その上に何層も絵の具を重ねることで強さを出し、文字のソフトな色調と強い赤を併置することで雰囲気をとても感情的なものにしているのよ」

〈Recipe for a Poem〉

「画家と詩人が使う道具の類似性が、このシリーズのアイデアソース。詩人が詩を編むために言葉をどう使うのか、対して画家は画材を使ってどのようにキャンヴァスの上に絵を描いていくのか。それを探っているの」

〈The Sick Rose〉

「このシリーズの作品からは、19世紀に書かれたぞっとするような詩のイメージが浮かび上がるの。ウィリアム・ブレイクの詩や、ボードレールの『悪の華』の中にあるようなものとかね。どちらも、官能的で寓話的な言葉を使うことで、人間の負の感情を表現している。私が作品を通して伝えたいのは、まさにそれなの。ブレイクの「真紅の喜びに満たされた褥」という一節は、そういう意味で私の作品と結びついていると言えるわ。キャンヴァスの上に塗りたくられ、滴っている血のように赤い絵の具は、活力ある生を想起させるでしょう」

Azadeh Razaghdoost: Recipe for a Poem is on view at Sophia Contemporary Gallery until Feb 10. 

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