世界のローカル・ポップスター10人

ベルギー、ドイツ、イスラエル、スペイン、オーストラリア、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、コロンビア、アルバニアという、10国からなるローカル・ポップスター10人から見た、ポップシーンのいま。

Tsar B – ベルギー

ツァーリB(Tsar B)は、22歳のジュスティーヌ・ブールジュの別名だ。故郷のベルギーでクラシック音楽のヴァイオリニストとして練習を積みながら、バンド活動もしていたという。自分が目指すかたちでの音楽活動を実現させるため、彼女は誰かの助力を待つのではなく、自ら行動を起こすことを決意。そこから突如生まれたのが、ツァーリBだった。最近の才能あるアーティストと同じく、ブールジュもまた共感覚を持っている。共感覚とは、ある特定の刺激を感じることによって、別の種類の刺激が引き起こされるということ。つまり、彼女の場合、音楽は色彩として感じられるのである。自らの名を冠したデビューEPで、ブールジュは4つの特異な方法でポップミュージックにアプローチした。リードシングルの「Escalate」(色はダークブルー)では雷鳴のようなビートが巧みに絡み合い、ドラマティックで中東風な音に発展していく。対して「Swim」(毒々しいイエロー)は、ハイになった〈FKAツイッグス〉みたいなサウンドが這うように続く曲だ。ある批評家は、彼女を簡潔にこう評している。「ツァーリBは五感に効くエクスタシーのようだ」

Bibi Bourelly – ドイツ

ベルリン出身で、現在はLAを拠点とするシンガーソングライター、ビビ・ブレリー(Bibi Bourelly)。この世に生まれ出でて22年で、もう相当の評価を受けている。リアーナ(アルバム『Anti』に3曲と「Bitch Better Have My Money」)やセレーナ・ゴメスに曲を書き、リル・ウェインやアッシャーの曲にゲスト出演。曲を第六感で書けるだけでなく(最初に曲を書いたのは1歳のときだと言っている)、脚光を浴びることにも意欲的な彼女は、今年、デビューEP『Free The Real』をリリースした。タイトルからもわかるように、すべての曲は正直さと偽りのない感情にまつわるもの。ブルージーな「Ego」や、ミニマルなアコースティックバラード「Riot」に、巧みに表現されている。

Noga Erez – イスラエル

これを読んでいるあなたも同類だと思うが、イスラエルのノガ・エレズ(Noga Erez)は、ポップミュージックの才能を開花させ、その音楽にどっぷりハマってしまう以前、長いあいだジャズに傾倒していた。テル・アビブで活動しているということもあり、彼女がつくり出すエクスペリメンタルなアジトポップ[訳注:政治的思想やプロパガンダをこめたポップミュージックのこと]は政治色が濃い。しかし、インスピレーションのひとつにM.I.A.を挙げていることからもわかるように、そのサウンドはダンスミュージック的な要素も併せ持つ。例えば、少し前にリリースされたシングル「Pity」は、波打つエレクトロニックビートに乗せて、最近のギャングによるレイプ事件の不正を暴く曲になっている。また、アイデンティティの抹消を題材にした「Off The Rader」は、アグレッシブなシンセサウンドが響くポップソングだ。

Sofi de la Torre – スペイン

ポップミュージックに公式は存在しない。それゆえにこの音楽は魅力的なのだ。だが、これは覚えていてもいいかもしれない。シンセ+メランコリア×クールな女性ボーカル=最高。そしてこの法則を堅持している者がいるとすれば、スペインのソフィ・デ・ラ・トーレだろう。2014年にリリースされたシングル「Vermillion」は、ルーヴル美術館に飾られてもいいくらい素晴らしいトラック。続く2015年のデビューEP『Mess』でも、ハイレベルなサウンドメイキングで自らの力を証明してみせた。今年に入ると、さらにアグレッシブな「Sit Down」をリリース。確かな才能を世に知らしめたのだった。

Tkay Maidza – オーストラリア

ヒップホップは好き? よかった。ポップミュージックはどうかな? 素晴らしい。じゃあ、ヒップホップとポップミュージックが融合してすてきなサウンドになるのは好きかい? ミッシー・エリオットが90年代初めにやってたみたいなやつさ。いいね。というのも、ジンバブエ生まれでオーストラリア育ちの小柄なラッパー、Tケイ・マイザ(Tkay Maidza)は、そういうヒップホップをつくるんだ。感覚をうずかせる、キラキラなやつをね。2014年にエレクトロ色を加えた「U-huh」で世間を驚かせると、レビュワーたちを騒然とさせた。EP『Switch Tape』を続けてリリース。デビューアルバム『TKAY』では、ラン・ザ・ジュエルズのキラー・マイクとのコラボレーションを実現させた。

Nadia Nair – スウェーデン

インド人とマレーシア人の両親を持つヨーテボリ在住のナディア・ナイール(Nadia Nair)は、最近話題のスウェーデン女性ポップスター第2世代の一人だ。ほかにはマペイ、セイナボ・セイ、ザラといったミュージシャンがいるが、ナイールもまた彼女たちと同じように、本場スウェーデンで培ったダイナミックなポップセンスと自身の両親のルーツ音楽を融合させている。デビューアルバム『Beautiful Poetry』は、魂とエネルギーを注入したエモーショナルなポップミュージックを、はかなさと力強さを兼ね備えたボーカルで味つけした、まさに傑作だ。

Ericka Jane – デンマーク

デンマーク人のエリカ・ヤーネ(Ericka Jane)は、最近の売れっ子ポップスターと同じ2つの方法、つまりテレビのタレント発掘番組と、YouTubeでの動画を通して、まず母国で有名になった。15歳のとき、デンマーク版〈X-Factor〉[訳注:イギリス発祥の音楽オーディション番組]に出場し、その翌年にはドレイクの「Marvins Room」をカバーしたジョジョのカバー(ちゃんとついてきてる?)を公開。なぜか駐車場で撮影されていたその動画は瞬く間に口コミで広がり、ヤーネはEP『Favorite Lie』やR&B色を帯びた曲をいくつか発表するに至った。先見の明が光る最新作「Bad Like You」のPVでは、リアーナふうのオシャレなシミーを踊りながら、艶かしい歌詞を口ずさんでいる。

ALMA – フィンランド

フィンランド出身のアルマ(ALMA)については、20歳であることと、髪が明るい緑色だということくらいしかわからない。それから、彼女が最高にクールだっていうこと。デビューシングル「Karma」は、音楽の形態をとった復讐だ。シカゴハウスとR&Bが奇妙な出会いを果たしたサウンドに乗せて、そのソウルフルなボーカルが静かに別れの言葉を告げる。アルマについてほかに知っておくべきことは、PVですべて見ることができる。そこに映し出されるのは、小汚い楽屋でのビールのがぶ飲みと場末のバー、それから、彼女が目下制作中であろうポップの名曲の数々。期待しよう。

Lao Ra – コロンビア

ラオ・ラ(Lao Ra)が育ったボゴダは、当時世界でも有数の犯罪都市とされていた。そんな街で起こるあれこれから目を背けるために、彼女は兄弟とMTVを見続け、やがてポップミュージックに傾倒していったという。時が経ち、同じようにパンクへの愛にも目覚めると、ラオ・ラは12歳で熱い思いに満ちた曲を書きはじめたのである。音楽の専門学校を卒業後(そして火災警報器会社で少しのあいだ働いたあと)、彼女は自分のオフビートなポップミュージックにふたたび目を向け、昨年末にデビューEP『Jesus Made Me Bad』をリリースした。トロピカルなビートと、ムー[訳注:デンマークのポップシンガー]のような実験的要素、PC世代のキラキラ系サウンドが、明るく、そして力強く融合した、ラオ・ラの音楽。それはときに渾然一体となり、ときに美しく、そしてときに破天荒にこだまする。

Era Istrefi – アルバニア

アルバニアのミュージシャン、エラ・イストレファイ(Era Istrefi)には、どこか心惹かれるところがある。デビューシングル「Bonbon」のPVは、巨大なピンクのファーつきパーカを着て、雪が積もった道路をほっつき歩きながら、ときにリアーナふうのダンスを披露するという、安っぽくて楽しいつくり。これがチグハグだというのなら、曲それ自体も負けてはいない。クールなR&Bにダンスホールレゲエとトラップが混ざり合い、しかもアルバニア語と英語で歌われている。全体はBBQをしながら聴くのにぴったりの、夏をイメージさせる仕上がり。冬に道に迷った女性を連想させるようなものではない。それでもなお、このPVの再生回数は1億5千万を超え、ストリーミング配信も数え切れないほどされている。それがどういうものであれ、ブラックミュージックが持つ魔法の力は、確かに効いているようだ。

This Week

和洋新旧の混交から生まれる、妖艶さを纏った津野青嵐のヘッドピース

アーティスト・津野青嵐のヘッドピースは、彼女が影響を受けてきた様々な要素が絡み合う、ひと言では言い表せないカオティックな複雑さを孕んでいる。何をどう解釈し作品に落とし込むのか。謎に包まれた彼女の魅力を紐解く。

Read More

ヴォーカリストPhewによる、声・電子・未来

1979年のデビュー以降、ポスト・パンクの“クイーン”として国内外のアンダーグランドな音楽界に多大な影響を与えてきたPhewのキャリアや進化し続ける音表現について迫った。

Read More

小説家を構成する感覚の記憶と言葉。村田沙耶香の小説作法

2003年のデビュー作「授乳」から、2016年の芥川賞受賞作『コンビニ人間』にいたるまで、視覚、触覚、聴覚など人間の五感を丹念に書き続けている村田沙耶香。その創作の源にある「記憶」と、作品世界を生み出す「言葉」について、小説家が語る。

Read More

川内倫子が写す神秘に満ち溢れた日常

写真家・川内倫子の進化は止まらない。最新写真集「Halo」が発売開始されたばかりだが、すでに「新しい方向が見えてきた」と話す。そんな彼女の写真のルーツとその新境地を紐解く。

Read More

動画『Making Movement』の舞台裏にあるもの

バレリーナの飯島望未をはじめ、コレオグラファーのホリー・ブレイキー、アヤ・サトウ、プロジェクト・オーらダンス界の実力者たちがその才能を結集してつくり上げた『Five Paradoxes』。その舞台裏をとらえたのが、映画監督アゴスティーナ・ガルヴェスの『Making Movement』だ。

Read More

アーティスト・できやよい、極彩色の世界を構成する5つの要素

指先につけた絵の具で彩色するフィンガープリントという独特の手法を用いて、極彩色の感覚世界を超細密タッチで創り出すアーティスト・できやよい。彼女の作品のカラフルで狂気的な世界観を構成する5つの要素から、クリエーション誕生の起源を知る。

Read More

ハーレー・ウェアーの旅の舞台裏

写真家ハーレー・ウィアー(Harley Weir)が世界5カ国に生きる5人の女性を捉えた旅の裏側、そして、ドキュメンタリー映像作家チェルシー・マクマレン(Chelsea McMullen)が現代を象徴するクリエイターたちを捉えた『Making Images』制作の裏側を見てみよう。

Read More

『Making Codes』が描くクリエイティヴな舞台裏

ライザ・マンデラップの映像作品『Making Codes』は、デジタルアーティストでありクリエイティヴ・ディレクターでもあるルーシー・ハードキャッスルの作品『Intangible Matter』の舞台裏をひも解いたものだ。その作品には、プロデューサーとしてファティマ・アル・カディリが参加しているほか、アーティストのクリス・リーなど多くの有名デジタルアーティストが関わっている。

Read More

ローラ・マーリンが表現する、今“見る”べき音楽

イギリス人のミュージシャン、ローラ・マーリンのニューアルバムに満ちている“ロマンス”。男っぽさがほとんど感じられないその作品は、女性として現代を生きることへの喜びを表現している。

Read More
loading...