映像作家・UMMMI. 映像で捉えた若者のリアルから、『愛』を考察する

映像作家・UMMMI.の作品の根底には、一貫して「愛」と「リアルを映し出すこと」の2つのテーマが存在する。そんな彼女のフィルモグラフィーから自身でピックアップした5つの作品を紹介。それぞれの作品に込めたメッセージ、現代社会に生きる若者の女性のリアルな視点から、様々な形の「愛」について聞いた。

Pains of Foerever - EN subs from UMMMI. on Vimeo.

短編映画『永遠に関する悩み』

1

不倫

 人妻を愛してしまった苦しみのあまり自殺した男のストーリーである、ゲーテの小説「若きウェルテルの悩み」を元に制作した短編映画『永遠に関する悩み』で、不倫について取り上げています。不倫している人を否定するわけでもなく肯定するわけでもない、まったく違った視点で描いてみたいと思いました。その結果、不倫から真剣に交際して結婚した夫婦の娘のナレーションという設定をつくって物語を進めることにしました。これは、両親共にいくども結婚している状況で生まれ育ったアタシの物語でもある、とも言えるかもしれません。(し、言えないかもしれません。)もちろん人の愛する人を横取りすることはいけないことなんだけど、アタシたちは失敗が起こりうる危うい世界を生きているのであって、例え法的にいけないことをしてしまったとしても人を深く傷つけてしまっても、一度その失敗を起こしたからといってその人が未来永劫、批判されたりしんどくなったりする必要は、もしかしたらないのかもしれないと思ったことがきっかけでこの作品を作りました。生きることは、いつ何が起こるかわからない謎だらけの場所に放り投げられているようなものだから。

Hotel Shakespeare from UMMMI. on Vimeo.

映像インスタレーション『ホテルシェイクスピア』

2

性愛

 ちょっと頭がおかしくなっていた時があって(でも孤独な女の子だったら、自分は気が狂ってるかも、ってときおり思うことあるよね、どうかな)その時に作った作品が『ホテルシェイクスピア』という作品です。シェイクスピアのドタバタ恋愛劇「恋の骨折り損」の戯曲を脚本に取り入れています。シェイクスピアとラブホテルという一見かけ離れたものを一緒にしてみたのは、このふたつに奇妙な共通点を見つけたからです。ラブホテルは、もちろんいろんな人が訪れては出て行く場所で、その場に、ざっくりまとめると一つの行為をしに行くわけです。この事実が、ちょっとシェイクスピアの演劇っぽいと思いました。世界中でシェイクスピアの戯曲を使って、いろんな人がいくどもいくども様々なアプローチで同じ内容に向かって実践してゆく。こう考えると、ラブホテルってなんだか劇場みたいだなと思いました。もちろん愛は最高だし、愛を守り通すことが最重要項目なんだけど、たまには肉体の純粋な喜びっていうものがこの世に存在しているということを忘れないために。

House of Psychic from UMMMI. on Vimeo.

映像インスタレーション『House of Psychic』

3

失恋

 愛する人が他のだれかをうっかり愛してしまったら、そしてその人に、もうあなたとは一緒にいられないと告げられてしまったら、その悲しみを永遠に引きずらなきゃいけない呪いを課されてしまうっていうことが何よりもしんどいと思いました。ただいくら悲しいことを言われても、まだ相手のことを愛することを辞められない場合もあって、もうそれは地獄で生きているようなものだなって。もし失恋という悲劇が自分の身にふりかかったことだったとするならば、アタシは作品を作るどころか、きっと1日15時間くらいベッドで枕を濡らすことになるけれど、それが一転、他人の話になると、ああこの人はここまでもひとりのことを愛することができるんだなあ、羨ましいなあと、とたんに美しい話を聞いているような気持ちになってしまう。それで作った映像インスタレーションが『House of Psychic』です。占いとか、目にみえない希望にすがってまで愛に決着をつけようとする女たちの物語。

UMMMI.'s Lonely Girl - short ver from UMMMI. on Vimeo.

ドキュメンタリー映像『UMMMI.のロンリーガール』

4

孤独

 ものすごく重要な、答えの見えない、いくつかのことに自分の心がグラグラと揺れていたときに作ったものが『UMMMI.のロンリーガール』でした。これは、酔っ払った女の子を渋谷駅までひたすら20分くらいアタシが担いでるというパフォーマンスの記録映像なのですが、普段はめったに人をおんぶしたり抱きかかえたりしないので、その重みのようなものをずしっと身体に感じて負荷をかけながら歩いて、早く渋谷駅に着かないかなあと思いつつ、いろんなことを考えました。たぶん身体的にしんどかったからかもしれないけれど、生きるってことはものすごく孤独な作業だなあっていうごく当たり前のことを思いました。どんなに愛し合ってる誰かと一緒に住んでいてもなんらかの理由でひとりぼっちで過ごさなきゃいけない夜は必ずあるだろうし、人と関係性を築いていくなかで自分の孤独との向き合い方をムクムクと成長させていかなければな、と思いました。そうでもしないと、アタシは酔っ払って一人でろくに歩くこともできない、金もなければ仕事も永遠にバイト、明日の生活もわからなければ感情的すぎるって恋人からもいつか見放されて、道端で泣きながらうずくまってるゴミみたいな存在になってしまうから。

短編映画『汚れきった天国』

5

純愛

 親密で湿度の高い関係性を続けることはすごく疲れることだから、人間が生きるたった数十年の人生で何人も愛することは不可能に近いのかもな、と思いながら作った短編映画が『汚れきった天国』です。ストーリーとしては、「これこそ真実の」「夢のような」「完全に初めての」恋に落ちたばかりの二人が同棲をすることにしたんだけど、実は引っ越し先の街が荒れ狂っていて、しかしその荒れきった場所こそを天国だと信じる、というような感じの物語です。(って言葉で説明すると最もらしいけど、実際はもうちょっと変な作りの映画です)完全な愛の状態に自分がいるとき、例えそれが荒れ狂ったものだったとしてもまったく何の問題もないまま・ときどき思い悩みながらも日々はよろこびで過ぎ去っていってしまう。そんな天国と地獄のメタファーも込めて作った短編映画です。

UMMMI. (ウミ) /アーティスト、映像作家。愛、ジェンダー、個人史と社会を主なテーマに、フィクションとノンフィクションを混ぜて作品制作をしている。過去に現代芸術振興財団CAF賞 美術手帖編集長 岩渕貞哉賞受賞(2016) イメージフォーラムフェスティバルヤングパースペクティブ入選(2016) ポンピドゥーセンター公式映像フェスティバルオールピスト東京入選(2014) など。7月14日-30日まで、初となる個展「頭のいかれた悪魔の泥沼」が阿佐ヶ谷にあるTAV Galleryで開催される。

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